Unit 07-A: 都市構造と結婚 ――札幌および福岡大都市圏の比較

日本大学経済学部教授 中川雅之 

1.はじめに

 2014年に発表された日本創生会議のレポートでは、「出生率の低い東京への一極集中が、日本全体の出生率を低下させている、このため東京一極集中の是正が必要である」という議論が展開された。しかし、東京都の低出生率は、婚姻率の低さに起因している。中川(2015)においては1)、東京大都市圏の中心都市としての東京都は、男女の有効なマッチング市場として機能しており、成立したカップルは、生活費の安価な郊外都市としての周辺都道府県に転出するため、周辺3県も含めた大都市圏単位では、深刻な問題を引き起こしていないことが指摘された。
 政令指定都市と東京都特別区の25~49歳女性の未婚率の、全国平均との格差をみると、大都市圏の中心都市とみなされる、ほとんどの都市において未婚率が高い。特に札幌市、東京都特別区、京都市、大阪市、福岡市などにおいて未婚率が7~8%高くなっている。東京大都市圏、大阪大都市圏など、都道府県域を超えた大都市圏単位で考えた場合、その格差は大きく低下する。大都市圏の範囲が都道府県内にとどまる、札幌市、福岡市においても、大都市圏単位で眺めた場合に同様のことが言えるのだろうか。


1)これに先立って、八田(2015)において同様の指摘が行われている。また中川(2015)においては、仙台大都市圏においても同様の傾向が当てはまることが指摘されている。

 

2.札幌市と福岡市の婚姻率

 全国の25~49歳の女性の婚姻率(有配偶者数/総数)が、55.9%であるのに対して、札幌市51.2%、福岡市47.8%と低い。都道府県単位では、北海道54.2%、福岡県52%と双方とも全国の数値よりもやや低い。図1および図2は、札幌大都市圏 2)と福岡大都市圏 3)の中心都市と、郊外都市および大都市圏全体の婚姻率について、各都道府県平均との格差をみている。
SPACE NIRA_中川雅之先生_図1、図2

 札幌市は、若い年齢では北海道の婚姻率よりも10%近く低く、全ての年齢階層で下回り続ける。郊外都市は、35歳以上において北海道の婚姻率を大きく上回るようになる。しかし、札幌大都市圏全体の婚姻率は、札幌市のそれとほぼ同様の動きを示し、北海道のそれを4%程度下回ることになる。福岡市が福岡県の婚姻率を若い年齢で10%程度下回り、全ての年齢階級で下回り続けること。郊外都市が福岡県のそれを上回り続けることは、札幌大都市圏の場合と同様である。しかし、福岡大都市圏全体の婚姻率は、郊外都市のそれによって大きく引き上げられ全体として福岡県のものとほぼ同様のものとなっている。


2)http://www.csis.u-tokyo.ac.jp/UEA/の札幌・小樽大都市雇用圏を用いている。これは札幌市、小樽市を中心都市とし、江別市等7市町村を郊外都市とする都市雇用圏である。本稿では
   説明の簡単化のため、小樽市を郊外都市に含めて記述している。
3)注2と同様の福岡大都市雇用圏を用いている。これは福岡市を中心都市とし、小郡市等18市町村を郊外都市とする都市雇用圏である。

 

3.巨大な中心都市の存在

 このような違いには、都市構造の差異が影響を及ぼしている。大都市圏人口の中心都市の比率をみると、札幌大都市圏は81.7%であり、福岡大都市圏のそれは59%にすぎない。
 札幌市の巨大さがこの結果をもたらしている。福岡大都市圏は1282.99㎢の大都市圏だが、福岡市はその27%の343.39㎢を占めているにすぎない。一方札幌市は、単独で1121.26㎢と福岡大都市圏に相当する広さを占めている。
 大都市圏の中心業務地域(CBD)に通って集積の経済を享受する者の居住範囲には、一定の空間的な限界がある。実際に札幌大都市圏の面積は3205.12㎢と非常に広範囲であるが、人口のほとんどが中心都市に居住している。つまり、福岡市でマッチングされたカップルは、多様な郊外都市の中から子育て環境を選択することができるが、札幌市でマッチングされたカップルの選択肢は、中心都市内に限定されている可能性がある。
 単一の地方公共団体が提示できる子育て環境と、複数の地方公共団体が提示できる子育て環境では、そのバリエーションにおいて大きな差が生じる。札幌市を構成する区と、福岡大都市圏を構成する区市町村ごとに、生活コスト/所得の比率を算出する。生活コストに関しては、平成26年都道府県地価調査の市区町村別の住宅地平均価格を用いる。所得については、総務省「市町村税課税状況等の調(1975~2013年)」から、課税対象所得を納税義務者数で除したものを用いている。
 札幌市と福岡大都市圏について、市区町村別に生活コスト/所得を算出し、それを低い順に並べて、累積人口比率(当該市区町村までの順番で、札幌市または福岡都市雇用圏の人口の何パーセントをカバーしているか)を、図3で記述した。札幌市が最低0.014から最高0.038の間に分布しているのに対して、福岡大都市圏においては、その半分の最低0.007から最高0.053までの間に分布している。福岡大都市圏においてカップルは、非常に生活費が安価な居住地を含む、豊富なバリエーションから選ぶことができるのに対して、札幌市においては、比較的狭い選択肢からそれを選ばざるをえない。
SPACE NIRA_中川雅之先生_図3b

* 「市町村別の住宅平均価格」は国土交通土地総合情報ライブラリーの「平成26年第15表

  市町村税関連のデータは、内閣府「市区町村別 人口・経済関係データ」の「課税対象所得」、「納税義務者数」にて取得可能。

4.おわりに

 なぜ、都市に若者が集まるのだろうか。ここでは二つの要因に着目する。

 1 集積の経済を活かした生産性の高い、多様な企業が集まり、就業機会が集中している。
 2 フェイスツーフェイスコミュニケーションが容易な環境、多様なタイプの独身者がいるため、効率的なマッチングを行うことのできる結婚市場がある。

 1と2の要因が重なり合う形で都市に若者が移入しており、しかも労働移動が活発でない日本のようなケースでは、カップルとしてマッチングされる前の就業先に縛られる形で、結婚後の居住地が決定されることが多い。2の機能が十全に発揮されるためには、稼げる中心都市と若年期に安価に生活できる郊外都市というバリエーションを都市圏が有している必要があろう。この2の機能が発揮できない場合は、1の理由で移入する若者、2の理由で移入したものの結婚が叶わない若者が中心都市に、未婚のまま滞留することになる。
 郊外都市とは、中心都市における豊かな就業機会や都市サービス、公共交通網や美術館などの公共サービスにフリーライドできる存在である。このような都市の存在は財政外部性をもたらす一方で、若年期における大都市圏での結婚生活を可能としている可能性があろう。札幌市は、札幌オリンピックの時に非常に大規模な合併を行い、現在の姿になった。このため、このような安価な生活環境を提供できる郊外都市が、通勤可能な地理的範囲に十分に存在していない可能性があろう。
 以上のように、マッチングの場として機能しているため婚姻率の低い中心都市、マッチング後の生活の場として婚姻率が高い郊外都市という傾向は、大都市圏一般に広く当てはまることが確認された。しかし、大都市圏全体では、地域全体の婚姻率とあまり変わらない婚姻率まで、前者を後者がいわば中和することが一般的であるにもかかわらず、札幌大都市圏はその例外となっている。本稿では、合併に伴う大きすぎる中心都市の存在をその原因として挙げたが、札幌市特有の原因について、さらなる研究が行われることを期待したい。


<参考文献>

  • 八田達夫(2015a)「地方創生策を問う(下) 移住の障壁撤廃こそ先決」日本経済新聞2015年2月6日朝刊『経済教室』。
  • 中川雅之(2015)「東京は『日本の結婚』に貢献‐人口分散は過剰介入」、『老いる都市、『選べる老後』で備えを‐地方創生と少子化、議論を分けよ』日本経済研究センター大都市研究会報告、20157月、pp45-59