コンファレンス 「日本の地方創生のための構造改革の課題を読み解く」   開催報告

主催:公益財団法人 NIRA総合研究開発機構
2018年2月5日(月) 15:00-16:30
フォーリン・プレスセンター(FPCJ)会見室

 地方創生の実現は、人口減少、超高齢化に直面する日本にとって最重要課題である。政府も政策資源を積極的に投入しているが、さらに効果を上げるための方策はあるのだろうか。本コンファレンスでは八田先生をはじめ第一線で活躍する3人の識者が登壇し、現在の地方創生政策の柱の一つである補助金政策の問題点を指摘した上で、少子化対策や地方分権の課題を取り上げ、地方に適切なインセンティブを与え地方創生を合理的に促進する構造改革とは何かについて幅広い議論が行われた。
 なお、本コンファレンスは“Economic Challenges Facing Japan’s Regional Areas”(Palgrave Pivot、2018年1月)の刊行を記念して開催された。

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プログラム

 1 報告 (15:00~15:30)
   (1) アジア成長研究所所長 八田 達夫
     「日本の地方創生に必要な構造改革」
   (2) 日本大学経済学部教授 中川 雅之
     「都市構造と結婚」
   (3) 一橋大学大学院経済学研究科教授 佐藤 主光
     「良い地方分権、悪い地方分権」
 2 パネルディスカッション (15:30~16:00) 
 3 質疑応答 (15:30~16:00)                                   ※敬称略

1 報 告

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(1) アジア成長研究所所長 八田 達夫
 日本では、大都市部に比べ地方の生産性が非常に低い。低生産性部門から高生産性部門に資源を移動させることにより地方活性化を図る必要がある。安倍政権は「まち・ひと・しごと創生事業」で、生産性の高い首都圏から低い地方へ企業や若者の移動を促進する補助金政策をとっている。しかし、このような補助金政策は長期的な地方創生には役に立たない。地方創生策のもう一つの柱である規制改革に、行財政改革を組み合わせた「構造改革」で合理的な資源の移動を促進することが有効だ。
 構造改革の一つめは、農業、漁業、観光産業、高齢者用サービス業などで規制改革を行い、地方が明確に比較優位をもつ分野の生産性を向上させることを目指すもの。農業補助金改革や民泊制度の導入などが典型だ。もう一つは、地方自治体と国との間の財政負担に関する行政改革。現状は、国と地方の間で財源負担の切り分けが適切にされずに両者ともに部分的な負担をしている。公共サービスは、教育や警察など国が全国で等しいサービスを義務づけている「国家機能」への支出と、公民館あるいは高齢者向け見守りサービスなどの地方の裁量に任せるべき「地方公共財」に分け、前者は国が全面的に費用を負担し、後者は地方が負担(一定の国の財政調整あり)する。自治体に適切な裁量権と改革へのインセンティブを与えることで、ヒトや企業の合理的地域選択と自由な移動を促進して全体を効率化し、経済成長へとつなげることができる。

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(2)  日本大学経済学部教授 中川 雅之
   少子化は地方創生にとって大きな問題だが、その解消のために低出生率の東京への人口一極集中を是正すべきとの主張(増田レポート)は妥当ではない。たしかに東京都の出生率や婚姻率は全国より低い。他方で、東京の周辺の都市の出生率や婚姻率は全国平均より高い。これは、東京の効率的な結婚マッチング機能によってできたカップルが、婚姻と出産を生計費の安価な周辺都市で行うことを意味している。そう考えると、東京は、周辺都市も含めた東京大都市圏での出生率に貢献していると言える。それは福岡市の大都市圏でも同様だ。札幌市の状況は少し異なるが、周辺の郊外地域を含めて考えると同様だといえる。地方創生のための少子化対策には、地方の中核都市、大都市への集積を高め、都市圏単位の少子化対策をとることが重要なのだ。

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(3)  一橋大学大学院経済学研究科教授 佐藤 主光
   日本では高齢化による社会保障費の増大が地方財政を圧迫し、他方で15兆円超に上る地方交付税は国の財政改革の争点の一つになっている。財政に関する国と地方の役割分担の見直しが不可欠だ。地方の歳出の不足分を国が地方交付税で賄うソフトバジェットと言われる制度では、地方自治体のモラルハザードを生み、住民のコスト意識も希薄で、予算の無駄使いが生じる。また逆に地方への国の過剰な関与も生み、自治体の主体性を損なっている。さらに、地方財政は地方法人税中心で、財政基盤の不安定さを生んでいる。地方財政では地域住民の税へのコスト意識を高める必要がある。財政基盤は地方法人税中心から固定資産税中心に代え、地元住民に負担を求めることを徹底する。そして住民に税の受益と負担の選択に責任をもたせる(限界財政責任)。それが、まちづくりなどでの地方の創意工夫を増大させることに繋がる。その結果、国の地方財政保障も適正に縮小できるだろう。

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2 パネルディスカッション

 パネルディスカッションでは、八田先生をモデレーター、中川・佐藤両先生をパネリストとして進められた。地方創生のための構造改革を規制改革と行財政改革の2分野に分け、より広い視点からの意見交換が行われた。

規制改革

中川:日本の人口減少局面では、シェアリング・エコノミーを進め、コストや、耐久財を増やすことなく、消費の増減に柔軟に対応できるような社会にすることが肝心で、そのための規制改革が必要だ。また、都市をコンパクト化する必要があるが、その過程で、市町村が持っている公民館や学校などの公共施設の量を減らすか、用途を転換せねばならない。しかし、建築関係の規制により、こうした用途転換が難しいので規制緩和が必要だ。

佐藤:日本の人口減少の問題は、急激な人口減少の過程に社会構造やインフラが追い付かないことだ。規制改革や環境の整備によって地方に人口が集中する拠点を増やし、そこを地域の成長センターにする必要がある。また、社会の高齢化により中小企業および農地の継承も問題となるが、規制緩和により、農地は大規模化、中小企業もM&Aなどを通じた企業の集約化を進め経済効率を向上させたうえで継承を考えるべきだ。さらに、柔軟な働き方の選択肢として重要な非正規雇用だが、差別的な社会保険料が彼らには大きな負担だ。待遇改善を図り、労働市場の流動化につなげるためには、同一労働同一賃金の徹底を社会保障の分野でも実行する必要がある。

八田:シェアリング・エコノミーは地方にこそ必要だ。規制改革を進めるためには、抵抗する既得権益者自身を巻き込んでいく必要がある。民泊の問題では旅館・ホテル業界を、カー・シェアリングも地元のタクシー業界を巻き込むような妥協や工夫が重要だろう。
 中小企業の継承の問題については、M&Aを模索しても地方銀行はM&Aに不慣れで改善が必要だ。一方、柔軟な労働市場がないために、大都市部の優秀な人材が地方の中小企業に入らず中小企業のM&Aが成立しない。非正規雇用者を適切に扱い労働市場の流動性が向上すれば、地方で後継者のいない中小企業のM&Aを活性化することにもつながる。

行財政改革

中川:現在ある地域を全て維持することはできない。将来的には持続可能な地域と持続不可能な地域を選別していかねばならない。しかし、中央政府が選別するわけにはいかない。自分の地域の価値を上げ固定資産税収を確保して歳入が歳出と一致するようにできる自治体は生き残り、そうでない自治体は持続できない、というシステムを作ることが考えられる。自分の地域が衰退するという厳しいビジョンに自治体をどう向き合わせるかは問題だ。
 また、現在、市町村は何でも全て行政サービスを実施しているが、それは非効率な考えだ。アメリカ等ではFOCJ(Functional Overwrapping Competitive Jurisdiction)に基づき、例えば学校運営など特別な目的にとって最適な空間範囲を設定し、そこにその目的実行のためだけの地方政府(special-purpose government)をもうけ、効率的な地方行政をしている。こうした新しいガバナンスの仕組みが必要だ。

佐藤:行財政改革には、3つのポイントがある。①はボトムアップで、地方の現場の創意工夫を重視するもの。そのためには②見える化が必要で、自他の自治体のパフォーマンスをデータで比較できるようにする。それは③EBPM(Evidence-based Policy Making)につながり、抽象的なスローガンではなく、政策の効果をデータで裏付けし、その裏付けに応じて政策形成していくことだ。
 また、全自治体が同じ業務をせねばならないのは、極めて「集権的」な地方分権だ。自治体のキャパシティに応じて業務のあり方を柔軟に見直し、規模の小さな自治体では、水道や学校などの大きな公共施設は近隣の中核市などに運営ごと委託してしまうような地域間連携が必要だ。現在の地方創生は、頑張る地方を応援するスタイルだが、他方で「諦める自由」も与え、2つの選択肢を用意することが必要だ。これ以上は自分達ではできないという業務に関しては、他の自治体に引き継いでほしいと依頼する自由を残す必要がある。

八田:自治体をどのように選別するかについて、現状は住民による合理的な地域選択を阻む2つの問題がある。1つ目は、例えば、大災害の被災者が地元に居続ける場合にのみ補助がでて、東京など他の地域への移住は自前で出費を賄う状況だ。被災者には全員一定の金額を渡し、居住地を自由に選択させれば、合理的選択が起るはずだ。2つめは、移住によって居住者を失う地域にのみ補助をだすことだ。自発的に衰退地域を選別させるためには、産炭地の衰退時の雇用促進事業団のように移動先への補助金があっても良いのではないか。

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3 質疑応答

 質疑応答では、①地方に対していかに資金提供を行うか、②地方の固定資産税の問題、③規制改革や行財政改革への既得権益者の取り込みについて、質疑応答があった。

① 地方に対していかに資金提供を行うか

Q1  銀行などの金融機関が衰退する地域に資金提供することが難しいので、地方には「ふるさと投資ファンド」等のリスクキャピタル提供が重要ではないか。
Q2 地域創生に関する、地域金融機関のそもそもの役割をどうみているのか。また、地域金融機関がいままでやってきた対策をどう評価するか。

佐藤:新興のリスクファンド、ベンチャーキャピタル等の新形態の金融機関の役割はあるが、地方に資金提供するのは、本来、地方銀行や信用金庫などの地方の金融機関の役割だ。
中川:地方銀行などもフィージビリティのある案件には新しい金融技術を活用しようとの姿勢になってきているが、適切な仲介者が地方にはいないことが問題だ。他方、仲介者がいる東京との連携では地元がないがしろにされるとの恐怖感が地方では強い。地方自治体も含め、新しい金融スキームの理解をもっとすすめて、活用を積極化した方がよい。
八田:採算の合わない地方の案件に資金を提供すべきなのか考えるべきだ。優良案件には地元の金融機関、投資家以外でも資金をつけるはずだ。また、地方銀行と東京のファンドとの連携ができていないことは問題だ。情報とプレイヤーのミスマッチが生じ、せっかくの地方の優良案件でM&Aが成立しないなど問題が生じてしまっている。

② 地方の固定資産税の問題

Q3 地方固定資産税に依存するのが良いのだろうか。例えば、中国の地方政府は地方固定資産税が歳入の中心で、土地の値段上昇を期待し、土地バブルの原因を作っている。

佐藤:中国は社会主義国家なので、地方自治体自身が土地を所有し、その土地を売却して収益を得るため、値上がりを期待した。これが中国の土地バブルの原因の一つだ。日本の場合は、固定資産税とバブルとは分けて議論した方がよいと思う。
八田:もう一つの日本と中国の違いは、中国には個人に対する固定資産税が存在しないことだ。日本では、固定資産税を再編成するときに考えるべき問題がある。税率を上げると時間差で地価に負の影響がでるのだが、そうすると課税時点での土地の所有者が将来の所有者が払うべき税負担までしてしまうことになることだ。
佐藤:税率を上げると地価が下がるという点は否めないが、他方では税収を使って良い行政サービスをすれば、それが地価の上昇要因になるという面もある。土地の所有者は、固定資産税の負担者だが、住民として受益を享受する側でもあるので両面を考えた方が良い。

③ 規制改革や行財政改革への既得権益者の取り込み

Q4 既得権益者が規制緩和の一翼を担い、それによって改革が進んだ事例は、民泊に関するもの以外で具体的にどのようなものがあるのか。

佐藤:例えば、PFIがある。PFIをしてもノウハウの蓄積のある東京のゼネコンが仕事をとってしまい、地方自治体がPFIに消極的になるという悪循環を生んでいる。自治体のなかには、地元の業者にPFIを受注可能なレベルのノウハウを蓄積させるために「PFIプラットフォーム」を形成している。これも既得権益者の取り込みの一種だ。
八田:政治的に強い既得権益を持った人達を改革に巻き込むことは、規制改革の公式と思う。改革を成功させる現実的な工夫を個々の自治体でさぐる必要がある。しかし、既得権益者の取り込みは、あくまでも「過渡期の対策」である。既得権益者の保護につながるようなことを未来永劫つづけていくことはできない。

<了>